現代ゴスペルの誕生を象徴する歴史的出来事は、トーマス・A・ドーシーが『テイク・マイ・ハンド、プレシャス・ロード(Take My Hand, Precious Lord)』を作曲した瞬間です。1932年8月、妻と新生児を相次いで亡くす深い絶望の中で生まれたこの楽曲は、ブルースのリズムと黒人霊歌の信仰心が完璧に融合した近代ゴスペルの金字塔となりました。1932年にはシカゴのピルグリム・バプテスト教会で世界初のゴスペル聖歌隊も設立され、それまで礼拝で排斥されていたポピュラー音楽の要素を取り入れた新しい教会音楽「ゴスペル」が全米へ広がる決定的な起点となりました。

『テイク・マイ・ハンド、プレシャス・ロード(Take My Hand, Precious Lord)』は、ゴスペル史上最も広く歌われ愛され続けている「ゴスペル賛美歌の金字塔」です。

楽曲の誕生と歴史

1932年8月、「ゴスペルの父」トーマス・A・ドーシーが巡業先のセントルイスにいた際、シカゴにいた最愛の妻ネティが出産の悲鳴の中で亡くなり、数時間後には生まれたばかりの赤ん坊も息を引き取るという未曾有の悲劇に見舞われました。

深い絶望と孤独の淵に沈んだドーシーがピアノの前に座り、哀しい心で鍵盤を叩いたときに溢れ出たのがこのメロディと歌詞でした。「主よ、私の手を取り、導いてください。私は疲れ、弱り、打ちひしがれています」と神への縋(すが)りを歌ったこの曲は、アフリカ系アメリカ人の教会だけでなく、世界中の人々の魂を揺さぶる聖歌となりました。また、公民権運動の指導者マーティン・ルーサー・キング・ジュニア(キング牧師)の最も愛した曲としても有名です。


YouTubeで聴ける名演

この曲を語る上で欠かせないのが「ゴスペルの女王」マヘリア・ジャクソンによる力強く重厚な歌唱です。

1. マヘリア・ジャクソン(1956年 スタジオ録音音源)

ディープな重低音と感情豊かなボーカルで『Precious Lord』の哀切と信仰心を完璧に描き出した最も有名な代表的音源です。

2. キング牧師告別式(1968年 追悼歌唱映像)

1968年4月、キング牧師の暗殺後に執り行われた告別式にて、キング牧師が生前最後にリクエストしたこの曲をマヘリア・ジャクソンが涙ながらに歌い上げた歴史的映像です。