アメリカ先住民の儀式歌に関する最古の文字記録は、16世紀のスペイン人宣教師ベルナルド・デ・サアグンらが記した『ヌエバ・エスパーニャ事物誌(フロレンシアのコード・コデックス)』に見られます。アステカ社会の言語であるナワトル語で記録された聖歌や儀式歌、祭礼の様子が挿絵とともに克明に収められています。また、北米インディアンの儀式歌については、19世紀末に人類学者ジェシー・ウォルター・フュークスがパサマクディ族やホピ族の歌声をろうかん(蝋管)録音機で記録したものが、現存する世界最古の「実際の音声による儀式歌の記録」として今に伝えられています。

『ヌエバ・エスパーニャ事物誌』(フィレンツェ手稿)は、印刷物として「発行」された本ではなく、16世紀に手書きで作成された全12巻からなる「手稿(写本)」です。
完成までの主要な時期・年代は以下の通りです。
* 成立(完成)時期: 1577年頃
スペイン人のフランシスコ会修道士ベルナルド・デ・サアグンが、アステカの現地協力者(ナワ族の知識人たち)とともに、1540年代後半から約30年以上の歳月をかけて編纂・執筆を続け、1577年頃にまとめ上げられました。
* 「発行(一般出版)」の時期: 1830年
当時、スペイン王室(フェリペ2世)によって教義上の理由等から回収・閲覧禁止命令が出され、長く没収・秘匿されていました。そのため、一般に活字で出版(発行)されたのは、制作から約250年が経過した1830年(キングズボロ卿による刊行)になってからのことです。

補足
原本の手稿は現在、イタリアのフィレンツェにあるメディチ・ラウレンツィアーナ図書館に保管されているため、一般に「フィレンツェ手稿(Florentine Codex)」と呼ばれています。